麻布でワヤン

麻布子ども中高生プラザ(東京都港区)にて、ワヤン公演を行いました。麻布という土地柄からか、ドイツ、アルゼンチンなど外国人のお客さまも来場し、ワヤンのお調子者キャラクター「デレム」は各国の言葉で挨拶をして会場を盛り上げました。

今回私たちは、新たな試みとして少しだけ照明に工夫を加えました。本来バリ島の伝統的なワヤンでは、椰子油のランプを使用します。ランプの炎の微かな揺れが、映し出された影に生命を宿すのです。
ランプは椰子油を定期的に補充して使用します。
ランプは椰子油を定期的に補充して使用します。

ここで少し、バリ島のワヤンの様子をご紹介します。ワヤン会場は半野外で、暗い闇の中にあります。スクリーン後ろに吊るされたランプに火が灯され、青銅製の楽器グンデル・ワヤンの甘い調べが聞こえてきます。これからワヤンが始まることを人々に知らせるのです。集まった人々はどんな物語が始まるのかと期待に胸を膨らませながら、その時を待ちます。

数多くあるワヤンの人形の中でも最も重要なワヤン「カヨナン」
数多くあるワヤンの人形の中でも最も重要なワヤン「カヨナン」

しばらくして、影絵世界の創造主とも言えるダラン(影絵師/人形遣い)が、ワヤン人形の入った木箱を チュパラという小さい木槌のようなもので威勢よく叩きます。その音を合図に全てが動き出すのです。演奏者たちは、合図に呼応してさらに激しく演奏を続け、やがて生命の木、宇宙の木とも言われる「カヨナン」のワヤンがスクリーンいっぱいに舞い、人々を影絵の世界へ誘います…。

燃え盛る炎の下、ダランは人形を操りワヤンの総指揮をとります。
燃え盛る炎の下、ダランは人形を操りワヤンの総指揮をとります。
暗闇の中、揺れる炎の光のもとに繰り広げられるワヤンはとても幻想的です。炎の明かりは人間の手では作り得ない美しさ、神秘性を感じさせます。炎はワヤンに最も適した照明だと思いますが、日本では会場の関係や消防法により、実際の火を使うのは難しいのが現状です。

昨今のバリ島のワヤンは、伝統的なランプを使用せずに派手な電飾を多用し、内容はただ面白さのみを追求したものの人気が高くなっています。ダランの哲学が盛り込まれた、素朴に美しい伝統的なワヤンが演じられる機会は、残念ながら減少傾向にあるようです。時代の流れとともに芸能の姿が変化していくのは、何処でも、いつの時代でも同じなのかもしれません。
伝統的なワヤンの上演の様子。
伝統的なワヤンの上演の様子。

しかし、古くから伝わる、高い芸術性を備えたワヤンの世界を このまま後世に伝えて欲しい…そのように強く願ってやみません。日本でも言えることですが、外部の人間の方が、伝統的なものの良さに気づきやすいのかもしれませんね。

話しがワヤンの照明から少し逸れてしまいました。照明に限りませんが、私たちは日本人であり、どんなにたくさん練習しても、上手に真似をしても、やはりバリ人と同じようにはワヤンを演じることは出来ません。しかし私たちは、バリ島のワヤンの魅力にすっかり虜になっていて、大ファンであることは自覚しております。伝統的なワヤンを心から尊重しつつ、今の私たちにしか出来ないワヤンを絶えず探っていきたいと思います。

さて、私たちは照明に炎は使えませんが、伝統的な雰囲気を壊さない範囲で電気の照明に工夫をすることに、(お金はかけずに)試行錯誤の挑戦中です。炎の明かりにはかないませんが、幻想的なあのバリ島のワヤンの雰囲気に 少しでも近づけたら…と思っています。